高画質ディスプレイには色々種類があり、どれを選べばよいか迷う方もいるのでは?高画質ディスプレイで人気なのが有機ELテレビですが、その次の技術として「量子ドットディスプレイ」にも注目が集まっています。2020年の東京オリンピックに向け、臨場感のある高画質な映像へのニーズが高まる今、ぜひ詳細をチェックしておきましょう。

量子ドットディスプレイとは?仕組みや応用

量子ドットディスプレイとはいったいどんなディスプレイなのでしょうか。ここでは量子ドットディスプレイの仕組みについて解説します。また、量子ドットディスプレイの材料「量子ドット」の応用についてもみていきましょう。

量子ドットディスプレイとは?

量子ドットディスプレイは、量子的光学特性をもつナノスケールの材料を採用したディスプレイで、色の純度が高いのが特長。高画質な映像で注目される4K・8K放送の本格的な実用化に向けた、広色域ディスプレイ開発の有力候補としても期待されています。

また近年ではネットショッピングやゲーム、仮想現実や拡張現実、医療などの分野においても色の再現性が高く、画質がきれいなものが必要とされています。現場の臨場感や実物感をリアルに再現できるのが、量子ドットディスプレイなのです。

量子ドットディスプレイの仕組み

現在主流となっている量子ドットディスプレイの構造は、バックライトから発する青色発光ダイオード(LED)の光が、ディスプレイのガラス面に貼られている量子ドットフィルムを通り、赤や緑の強い光を放出するというものです。従来のディスプレイだと、赤と緑の発色が弱いのがネック。しかし量子ドットディスプレイは光の波長を変化させ、色の純度が高い青や緑、赤の3原色を作り出せるのです。

いかに高い輝度と広い色域を再現できるのかが、ディスプレイの画質を決めるカギとなります。その点で、量子ドットディスプレイは高画質ディスプレイの条件をクリアできるといえるでしょう。

「量子ドット」はディスプレイの他にどのように応用される?

量子ドットディスプレイの材料となるのが「量子ドット」。広色域で発色が鮮やか、高効率、長寿命という特性があるため、以下の用途への応用が期待されています。

  • LED照明やLEDディスプレイ
  • 太陽パネル
  • プリント技術やコーティング技術
  • セキュリティタグ、セキュリティインクの偽造防止
  • 量子ドットレーザー
  • 生体イメージングやバイオマーカー、医療画像装置など

光を長時間あてても退色しないというメリットがある一方、酸素に弱いというデメリットもあります。酸素にさらされると材料の表面が酸化し、性能が低下する恐れがあるため、安定して性能を維持できる工夫が求められています。

量子ドットディスプレイの課題は?RoHS指令の影響や取り組みも

広色域の映像を実現できるとして、過去に多くの企業が参入してきた量子ドットディスプレイ市場。しかし実際には期待されていたほど市場は伸びませんでした。その原因として、量子ドットディスプレイの課題が挙げられます。ここでは、その課題やRoHS指令の影響、それに伴う各企業の取り組みについて解説していきます。

量子ドットディスプレイの課題

量子ドットディスプレイの課題として挙げられるのが、量子ドットの材料です。量子ドットは値段の高さに加え、有毒物質であるカドミウムを使用しているため、量子ドットディスプレイ市場の参入に抵抗のある企業も多いというのが現状です。

カドミウムフリーやカドミウムレスの量子ドットも開発されていますが、カドミウムベースの量子ドットよりも性能がやや劣るのがネック。量子ドットディスプレイが広く普及するためには、カドミウムフリーやカドミウムレス量子ドットの性能を向上させる必要があるでしょう。

RoHS指令とは?量子ドットディスプレイへの影響

「RoHS指令」とは、欧州連合(EU)の電子・電気機器における特定有害物質の使用を制限する指令のこと。カドミウムについても対象となり、量子ドットに使える量は100ppm以下と規制されています。そのためカドミウムが100ppmを超えるとEU加盟国に輸出できません。

さきほど説明したように、特性がよい量子ドットはカドミウムがベースになります。量子ドットのよさを生かすためにはカドミウムを使う必要があることから、RoHS指令においても何度か例外規定が設けられ延長されてきました。しかしこの例外規定も2019年10月をもって終了。そのためRoHS指令に適合した製品を作る技術が求められています。

カドミウム使用に対する企業の取り組み

量子ドットディスプレイのカドミウム使用に対する企業の取り組みとして、「サムソン電子」がカドミウムを使用しない量子ドットを製品化し、「QLED-TV」のブランド名で販売。また「昭栄化学工業」がカドミウムを使わない独自の製法を確立し、量子ドットフィルム用の半導体ナノ粒子を量産すると発表しました。

量子ドットの材料で業界を牽引する「ナノシス」はカドミウムとカドミウムフリーの材料を混ぜ、RoHS指令の規定値をクリア。さらに「NSマテリアルズ」ではカドミウムフリーの材料開発を進める一方で、カドミウム系でも性能を高めることでRoHS指令の規定値を超えないことが可能としています。

液晶TVやモニターの「量子ドットディスプレイ」スマホへの活用は?

量子ドットディスプレイの販売数は年間400万台程度と横ばいに留まっていました。しかし2019年に入ると量子ドット大型液晶テレビが低価格で販売されたり、大手中国企業が日本のテレビ市場に参入したりと市場規模は一気に拡大。ここでは量子ドットを搭載した液晶テレビやモニターの紹介に加え、量子ドット技術のスマホへの活用について解説します。

従来比約115%の色域を実現「TCL65V型4K液晶テレビ」

大手中国家電メーカーの日本法人「TCLジャパンエレクトロニクス」から2019年12月上旬に発売予定なのが、量子ドットを搭載した65V型4K液晶テレビ「65X10」。バックライトとディスプレイの間に量子LEDフィルムを差し込むことで、広色域の映像を表示。従来の液晶テレビと比べると約115%まで色域が広がり、豊かな色彩と自然に近いカラーを再現します。

量子ドットを搭載した液晶テレビ市場には、TCLのほかに同じ中国の「ハイセンス」や韓国の「サムソン電子」、アメリカの「VIZIO」が参入しています。日本メーカーの量子ドット液晶テレビへの参入は少なく、OLED(有機EL)テレビを生産する企業が増えています。

量子ドットディスプレイの液晶モニター

量子ドットを搭載したモニターは高額なものが多かったのですが、最近では低価格化が進んでおり、10万円以下で手に入る製品もあります。「アイ・オー・データ」からは2019年2月に31.5インチの液晶“PhotoCrysta”「LCD-PHQ321XQB」が発売。広色域のディスプレイはサイネージ用モニターとしても最適です。

また「HP」では、世界ではじめて両面ガラスに量子ドット技術を適応させた32インチの新型液晶モニター「HP Pavilion 27 Quantum Dot」を2019年7月に発売。従来よりも薄型であることに加え、鮮やかな色の表現に注目が集まりました。

「量子ドット技術」スマホへの活用は?

「量子ドット技術を活用したスマホもあるのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、量子ドット技術は今のところスマートフォンに採用されていません。これは、スマートフォンのフレームが狭いことと関係しています。量子ドットフィルムは側面部分がむき出しになっており、そこから水分や酸素が侵入すると、劣化が進みます。そのため、スマートフォンに量子ドットフィルムを使用し側面から劣化した場合、画面に影響がでる可能性が高くなります。

現在量子ドットフィルムは、ディスプレイ画面のフレームが広くとれるテレビやモニターへの使用がメイン。スマートフォンへの活用には、量子ドットフィルムの耐久性の向上が課題です。

画質にこだわるなら量子ドットディスプレイの検討を

スーパーハイビジョン放送の普及にともない、広色域の必要性は徐々に高まりつつあります。また、量子ドットの性能は向上され価格も下がり始めているので、視覚的に満足を得たいなら量子ドットディスプレイを検討してみてはいかがでしょうか。気になる方は実際に店頭で量子ドットディスプレイの画質を確認してみると良いでしょう。